前回の記事では、最新の電子黒板の板書機能QRコード発行による、生徒側のメリットを書きました。
▼前回の記事:板書のQRコード発行による、生徒側のメリット
https://kokuban-base.com/columns/qrcode/
今回は、板書を保存できることによる先生・教育機関側のメリットを述べます。
最新の電子黒板では、板書をGoogle DriveやOneDriveなどのクラウドに保存できます。たとえば「中学2年理科 第3回 状態変化 授業板書」と名前をつけて保存しておけば、月曜日に1組で使った板書を、火曜日の2組の授業でそのまま呼び出して再利用できます。板書には図や動画を挿入することもでき、紙やチョークでは難しかった立体的な授業も実現します。これまでの授業では、授業終わりに黒板は必ず消されます。何十年も続いてきた当たり前の習慣です。けれど、丁寧に組み立てた板書には、どの順で書けば理解が進むか、どこを強調すれば生徒の目が留まるか——先生の授業設計のノウハウが凝縮されています。それを毎回黒板を消してしまうのは、完成した教材を授業のたびに破り捨てているようなものです。
「この板書は上手く書けたから、消すのが惜しい」は先生のあるあるです。
本記事では、板書をクラウドに保存することが、先生個人と教育機関の双方にもたらす3つのメリットを、それぞれの授業例とあわせてご紹介します。
使い方:板書に「名前をつけて」クラウドに保存する
使い方はシンプルです。電子黒板で書いた板書を、Google Driveなどのクラウドに保存します。Google Driveと板書を接続させることが可能ですので、ボタン一つで指定のフォルダへ保存できます。一度保存した板書は消えることなく、いつでも、どの教室の電子黒板・PC・スマホからでも開ける「教材」として残り続けます。
メリット①:授業の効率化!明日の授業で、同じ板書を書かなくて済む
最も実感しやすいのが、授業準備の効率化です。
同じ単元を複数のクラスで教える先生は少なくありません。たとえば、理科の専任講師は同じ板書を1週間で複数回書きます。1組で書いた板書を消し、2組でまた一から同じ図を書き、3組でもう一度——という繰り返しでした。クラウドに保存しておけば、その手間がなくなります。1組で完成させた板書を、2組では開くボタンをタッチだけで完成形の板書を表示できます。
しかも、ただ再利用するだけではありません。2組で出た質問や反応を踏まえて板書に書き足していけば、保存版は授業を重ねるごとに洗練されていきます。同じ単元を教え終わる頃には、「今年度のベスト板書」が一枚できあがっている、というわけです。
そして、来年度はその板書を再利用できます。
一度書けば、もう書かなくていい。それどころか、使うたびに良くなっていく。板書はもう、消すものではなく、育てる教材です。
<授業例>状態変化を3クラスで教える(中2理科)
固体・液体・気体の変化を矢印で結んだ図と、温度変化のグラフを、1組の授業で丁寧に板書します。授業の最後に「中学2年理科 第3回 状態変化」として保存。
2組の授業では、その板書を呼び出すだけ。書く時間がまるごと浮いた分、演示実験や生徒との対話に時間を回せます。さらに、授業冒頭で生徒にQRコードを発行すると、生徒は写す時間もなく、一瞬で手元に図やグラフが表示できます。
2組で「融点と沸点の違いが分かりにくい」という声が出たら、その場で補足の図を書き足して上書き保存。3組では、さらに分かりやすくなった板書からスタートできます。同じ45分でも、後のクラスほど授業の密度が高くなっていきます。
▼参考記事:理科の授業で図やグラフを巧みに使う授業案
https://kokuban-base.com/columns/javalab/
メリット②:準備時間の短縮!分かりやすい図やグラフを一瞬で表示
クラウドに保存できる電子黒板の板書は、チョークの黒板とは違い、図や動画を直接挿入できます。これは「保存できる」ことの副産物のようでいて、授業の質を大きく変える要素です。
一度作り込んだ図解や、授業で使った動画を含む板書を保存しておけば、次に同じ単元を教えるとき、その作り込んだ教材をまるごと再利用できます。手間をかけて準備した「いい授業」が、一度きりで消えずに何度でも使えるのです。
紙の資料をクラス分印刷することは不要になります。
<授業例>地形の成り立ちを動画で見せる(中1社会・地理)
川がつくる扇状地や三角州は、言葉と静止画だけでは「なぜその形になるのか」が生徒に伝わりにくい単元です。そこで、板書に地形の形成過程を示すアニメーション動画を埋め込み、地図や断面図と並べて構成しておきます。土砂がどう運ばれ、どこに堆積するのか——動きで見せることで、地形の理屈が直感的に理解できます。この板書を保存しておけば、来年も再来年も、同じ完成度の授業を再現できます。毎年ゼロから動画を探し直し、図を描き直す必要はありません。一度作った「立体的な教材」が、年々の財産として蓄積されていきます。
▼参考記事:社会の授業における、ハザードマップを活用した防災の授業案
https://kokuban-base.com/columns/onagawa-denshikokuban/
メリット③:準備時間の短縮!別の教室でも使えて、準備時間を短縮できる
クラウド保存の板書は、特定の電子黒板一台に縛られません。別の階の教室でも、離れた校舎でも、手元の電子黒板からクラウドにアクセスするだけで、保存した板書を呼び出せます。「いつもの教室でしか使えない」「あの一台に保存したから取りに行かないと」という制約がなくなります。どの教室に移動しても、ログインひとつでいつもの授業環境を再現できます。
これは複数の校舎を持つ学校や塾にとって、特に大きな意味を持ちます。そして、この「組織で板書を共有できる」という特性は、新人の先生の研修でも力を発揮します。
<授業例>ベテランの板書を新人研修に活かす
ベテラン講師の板書を組織のクラウドで共有します。すると、別の校舎の先生も、別の学年を担当する先生も、その板書を呼び出して自分の授業に使えます。
ここで効いてくるのが、経験の浅い先生の育成です。新人の先生が、ベテランの板書を実際に開いて「どういう順番で、何を、どう書いているか」を学べる。口頭の指導や見学だけでは伝わりにくい授業設計のノウハウが、完成された板書という形で目の前にあります。研修用の教材をわざわざ作らなくても、日々蓄積された板書そのものが、最良の手本になります。属人化しがちな指導の質を、組織全体で底上げできるのです。
運用のコツ:保存ルールを最初に決めておく
組織のGoogle Driveを作成し、科目別にフォルダを準備。そのフォルダに各先生が授業後に板書を保存。すると、別の先生の板書を開くことが可能になります。
ただし、別の先生がそれらの板書に書き足し、上書き保存をしてしまうと元データが消えてしまいます。そうならないように、「名前を付けて保存する」などの現場運用のルールを決めるか、自動でバックアップファイルを生成するシステムを開発するといいでしょう。最新のAIのCoworkを使えば実装できます。
さらに、保存時の命名ルールも決めておくと、運用しやすくなります。
おススメの命名ルールは、「学年 → 教科 → 単元(回)」の順です。「中学2年理科 第3回 状態変化」のように統一しておけば、半年後でも一年後でも、別の先生でも、必要な板書にすぐたどり着けます。学校や塾の組織単位でGoogleアカウントを一括管理しておけば、先生どうしの共有もスムーズです。最初に5分でルールを決めておくだけで、後々の検索や引き継ぎの手間が劇的に減ります。
まとめ:一枚の板書を、組織の財産に変える
板書をクラウドに保存することの本質は、「便利になる」ことではありません。これまで授業のたびに消えていた先生の知恵を、消さずに積み上げていけることです。
明日の自分が、来年の自分が、隣のクラスの先生が、新しく入った先生が——保存された一枚の板書から、授業設計のノウハウを何度でも引き継げます。図や動画を含む作り込んだ教材も、一度きりで終わらず、年々良くなっていく財産になります。
特別な準備も、高度なICTスキルもいりません。板書に名前をつけて、クラウドに保存する。それだけで、その場限りだった板書が「ずっと使える教材」に変わり、先生個人の準備時間を生み、教育機関全体の授業の質を支えていきます。