東日本大震災から15年が経ちました。2026年の小学6年生は、2014〜15年生まれです。生徒にとってあの震災は、すでに「生まれる前の出来事」になりました。「大地震が来たら高台へ」と教えても、反応は鈍いのが現実です。海がない、山もない――身近な地形に引き寄せて語らなければ、防災教育は届きません。そして、自分事にしなければ、もちろん入試問題には太刀打ちできません。

そこで本稿では、宮城県女川町を題材にした授業案をご提案します。電子黒板に「重ねるハザードマップ」を映し、近隣の小学校と被災地を比較しながら、地形を読み、まちを作り直す視点を養う授業です。

地理院地図・ハザードマップとは?:国が無料で公開する「命に関わる地図」

国土交通省が提供する「ハザードマップポータルサイト」は、津波浸水想定、洪水浸水想定区域、土砂災害警戒区域など、複数のリスクを一枚の地図に重ねて表示できる無料サービスです。本稿で活用するのは、このうち「重ねるハザードマップ」になります。

ハザードマップポータル:https://disaportal.gsi.go.jp/

事例①:身近な小学校の3Dでみる

防災の授業は「自分事」になるかどうかで成否が決まります。まずは近隣の小学校から始めたいところです。ここではKokuban BASE近隣の京極小学校を例に取ります。3D表示に切り替えると、地形の高低差が立体的に現れます。

まずは、左側の洪水をクリックします。

地図に色が広がります。京都御所の周囲には洪水リスクがあるのに対し、御所の内部は白いまま。この違いが、生徒の関心を呼び起こします。「なぜ御所だけ色がつかないのか」――地形と歴史への入り口となる問いです。

さらに、津波をクリックすると、

色は一切つきません。京都市内は海に面しておらず、津波の到達可能性は極めて低いためです。同じ災害でも、場所によってリスクは異なります。当たり前の事実が、地図を介して腑に落ちる瞬間です。

事例②:宮城県女川町を見てみよう。

ここで問いかけます。「津波の起こる可能性のある場所はどこか」。今回は、東日本大震災の被災地であり、「あたらしいスタートが世界一生まれる町へ。」をスローガンに掲げた宮城県牡鹿郡女川町を取り上げます。小さな入江や湾が複雑に入り組んだ東北地方の太平洋沿岸に宮城県女川町はあります。女川町は、年間を通じて様々な魚介類が豊富に水揚げされることから、漁業と水産加工業を中心とする港町として発展。しかし、2011年3月11日に発生した東日本大震災によって町は壊滅的な被害を受けました。最大約15メートルの高さの津波が町を襲い、人口約1万人のうち、死者・行方不明者は827名に達し、海岸沿いにあった建物のほとんどが破壊されました。

こういった話ばかりが先行し、「被災地」と聞いて荒廃した景色を思い浮かべる生徒は少なくありません。しかし、現在の女川町は美しい街並みを取り戻しています。

まずは、震災後に作り直された新しい町の姿を見せることから始めます。

では、重ねるハザードマップで女川町を検索し、津波を選択します。

ピンク色の帯が海岸沿いに広がります。一方、山には色がありません。どこが危険で、どこへ逃げればよいか。その境目が一目でわかります。
ここでさらに注目してほしいのが、学校の横の見慣れない地図記号です。京都市内にはあまりみられなかったこの記号が、女川町には複数あります。

これは自然災害伝承碑です。

自然災害伝承碑は過去に発生した自然災害の様子や被害の状況などが記載された石碑やモニュメントです。 実際に被災した場所に建てられていることが多いことから、その地域で過去にどのような災害が起きたのかを知る手がかりとなります。

女川町の伝承碑が、津波に関するものであることは容易に想像できます。問題はその位置です。学校の横にあり、津波最高到達点の付近にあります。なぜ、そこなのでしょうか。以下が自然災害伝承碑の実際の写真です。

中学生が建てた「女川いのちの石碑」

石碑の名は「女川いのちの石碑」。建てたのは、震災直後に女川第一中学校(現・女川中学校)に入学した生徒たちです。地域住民と協力し、女川町内すべての浜に石碑を設置しました。中学生の発案による取り組みでした。

~女川いのちの石碑 碑文~(原文ママ)

「夢だけは 壊せなかった 大震災」

 東日本大震災で,多くの人々の尊い命が失われました。震災後に起きた大津波によって,ふるさとは飲み込まれ,かけがえのないたくさんの宝物が奪われました。「これから生まれてくる人たちに,あの悲しみ,あの苦しみを,再びあわせたくない!!」その願いで,「千年後の命を守る」ための対策として

 ① 非常時に助け合うため,普段から絆を強くする。

 ② 高台にまちを作り,避難路を整備する。

 ③ 震災の記録を後世に残す。

を合言葉に,私たちはこの石碑を建てました。ここは,津波が到達した地点なので,絶対に移動させないでください。もし,大きな地震が来たら,この石碑よりも上へ逃げてください。逃げない人がいても,無理やりにでも連れ出してください。家に戻ろうとしている人がいれば,絶対に引き止めてください。

今,女川町は,どうなっていますか?悲しみで涙を流す人が少しでも減り,笑顔溢れる町になることを祈り,そして信じています。      

2014年3月 女川町立女川中学校卒業生一同

今の生徒たちと同じ年頃の中学生が、「千年後の命」を守るため行動しました。この事実は、教科書のどの一文より重い意味を持ちます。

そして、女川町の写真をもう一度みてみましょう。被災地の中には、10メートル超の巨大防潮堤を築いた自治体もあります。女川町は異なる道を選びました。「防潮堤は築かない」。女川は街から海が一望でき、秋にはサンマが揚がる、漁業の町です。

住宅は高台へ移し、低地は商業エリアとする。海を壁で覆うのではなく、海を大切に思い、いざというとき津波に気づけるように。

「自分の街が災害にあったら、どう作り直すか」。この問いは、社会科が到達しうる最も実践的なテーマの一つです。防潮堤か、高台移転か、何を優先的に再建するか。答えは一つではありません。そこに住む人が選び取る問題です。地図を読み、議論し、まちを構想する力は、地理・公民・総合の知識を一本に束ねます。

入試問題との接続

地形と自然災害、復興まちづくりは、中学受験や公立高校入試の地理・社会分野で頻出のテーマです。女川町は、関西の中学入試模擬試験「五木・駸々堂模試」でも出題された実績があります。地図を通じて体験した生徒は、記述問題でも強みを発揮します。

まとめ:「地形を読む力」が命とまちを守る

電子黒板でハザードマップを扱う意義は、情報量の増加ではありません。「自分の場所」と「過去の被災地」が一枚の画面でつながる瞬間、生徒の関わり方が根本から変わります。

女川町の事例が示すのは、復興とは「元に戻す」ことではない、という事実です。地形を読み、リスクを理解し、より良い形で作り直す。10〜20年後、そのまちに住み、責任を担うのは今の生徒たちです。そして、その責任を果たそうとした中学生がいました。

画面に映るのは架空の地図ではありません。毎日通う道であり、いつか作り直すかもしれない未来のまちです。ブラウザを開いて学校の住所を入力するだけで、授業は始まります。特別な準備は要りません。